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髪型が大五郎に似ていた芸術家の卵の教え子の話

平成二年のことでした。もう辞めましたが、この時私は中学校の美術教師でした。美術部を作って二年目、少人数ながら楽しく放課後を過ごしていました。ある日、体育の教師が美術室を訪れ言うのです。

 

お宅の部の生徒を職員室で指導しているからすぐ来てくれと。何事かと早足で職員室に入ると、美術部の1年生のM君がうなだれて椅子に座っていました。体育の教師の話では、体育館のステージの側面の外れた板の間にM君は給食の時に飲む牛乳を、飲みもせずそのままパックごとたくさん入れていたというのです。

 

私は理由を聞きました。彼は小さな声で言いました。「牛乳をあそこに置いていたら、チーズになるはずだから毎日置いていました」と。教師たちは口々に嘘を言うなと言いました。彼は本当だと言いました。私には言い逃れとは思えませんでした。彼はあまり人のしないことをする人でした。

 

家の近くの土手にどのくらい爆竹を詰めれば壊れるか実験したり、フラスコの中に水を入れた時に、水の表面はどうなるかを友人と延々と激論したりなど。そういう彼が、牛乳の放置でチーズになるかどうかを検証しようとしたと主張するのは、とても自然なことのように思えました。

 

彼が大学生の4年生の時、私が異動していた学校にわざわざ訪ねて来てくれました。事務の女性職員はあたかも恐ろしい人が来たかのような顔つきで私を呼びに来ました。「お客さんです。今、事務室の横の玄関です。Mという人です」と。


私は嬉しくなって玄関に行きました。M君は礼儀正しい礼をし、相変わらずの笑顔を見せてくれました。事務室に通ししばらく話しました。美大のデザイン科に進学したけれど、いまいちなんです。今は陶芸に興味はあるんですけど彼は近況をしばらくの間話してくれました。

 

彼は頭部を筒状に?剃り上げ、頭頂部だけ髪を10センチほど残し、真っ赤な太いゴムで縛っていました。初めて見る髪型でした。子連れ狼の大五郎のイメージに近かったと言えるでしょう。私はこういう人が大好きです。今はどんな暮らしをしているだろうかと時々思います。